草屋根のはじまり
1998年自宅である「御影草屋根の家」が完成しました。
この家は、けんぺい率から建築面積が12坪しか建てられない狭小地で、また北側斜線により、屋根の高さ制限があったため、子供室を屋根裏空間にしか確保できず、子供室の、夏場の環境改善のため屋根緑化を試みたものです。
この家の地下が仕事場であるということから、草屋根の依頼が続き、個人住宅を中心に、34件の「草屋根」(木造傾斜屋根の緑化)が竣工、現在も6件計画中です。
草屋根の目的
草屋根の目的は、まず、室内環境の向上です。
和歌山大学の山田宏之先生が「御影草屋根の家」の室内外の温度を測定して解析した結果によると、屋根を緑化するとアスファルトシングル葺きにした場合にくらべ、真夏に屋根からの侵入熱量が20分の1になるという結果が得られました。
屋根からの熱の影響をほとんど受けないといっても過言ではありません。
その他、屋根の照り返しがなく、周囲の環境を良くし、リフレッシュの場になったり、収穫を楽しんだりできます。これが広まって、町が緑で覆われるようになると、ヒートアイランド現象を緩和します。
草屋根の計画のポイント
A 屋根の形状
屋根の形状な勾配さえ適正であれば、どんな形でも大丈夫です。
納まりのポイントは以下のとおり
① |
勾配 屋根勾配は、登って怖くない程度であること、土が流れにくいことなどから、基本的には3寸くらいまでとし、高所が苦手な施主には、もっと緩勾配で設計しています。 逆に陸屋根は、自然な排水ができないので、好ましくないです。 ちなみに「彫刻家の家」は屋根がS字曲線で、勾配が最大5寸ありますが、土が流れるなどの問題はありませんでした。また、屋根全体をアールにしている場合、棟では水平になるが、両側に排水するため、大丈夫です。 |
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② |
アール屋根 アール屋根は、棟部分で土留めのボルトが防水を傷つける心配がないので、草屋根では一番安心して施工できます。 通常、棟が乾燥しやすく、軒先が湿気を多く含みますが、アール屋根のときは、棟が水平で保水しやすく、軒先は勾配がきついので排水しやすいため、屋根全体の水分量のバランスが良くなります。 |
③ |
切妻屋根 切妻の棟部分は、頻繁に踏まれて傷み易いことと乾燥しやすいこと、土が減りやすいことを考慮して計画します。軒先より、棟のほうに土を多めに施工し、芝は、ずれにくいように棟をまたぐように置きます。 |
④ |
片流れの屋根 上部にパラペットを立ち上げ、笠木にボルトを取りつけて土留めを吊るします。 |
⑤ |
けらばと軒のデザイン 立ち上げをつける場合とつけない場合の2通りがあります。 屋根が高い位置にあったり、勾配がきつかったりして、端部が見える方が安心感な場合は、立ち上げをつけ、内樋にします。 立ち上げをつけない場合、土留め金物より先は、金属の水きりから水を落とし、必要な時は樋で受けます。 |
B 重量
草屋根の重量は、使用する材料を確認の上、計画します。
C 防水
隙間なく、連続した防水層を作ることが重要です。防水層は、パラペットの立ち上げや、棟の笠木の下にも連続させ、土留めボルトを吊るときにも決して防水層を貫通しないようにします。通常、2層の改質アスファルト防水に耐根シートを載せ、さらに耐根シートを置きます。
D 土留め
土留めはステンレスのパンチングを使います。防水を傷つけないように、下にゴムマットを敷き、ねじ切りボルトで吊ります。灌水ホースは寿命が比較的短いので、取り替えるときに、金物をはずさなくても良いようにします。また、屋根の上でつまずかないようにすべて地中に埋めます。品質を安定させるため、YURIDESIGNでオリジナルに金物を作っています。
E 土と植物
土は、保水性があり、栄養分の高い軽量土壌が良いです。空気を良く含んでいると軽量で根腐れしにくく、繊維質のものを混ぜると、飛散しにくいです。
植物は、水さえあれば、何か育ちます。とりあえず、土が飛ばないように表土を覆うには、芝が最適。シート状になっている上、安価で強いからです。夏場で、植栽の成長が早いとき、勾配が緩いとき、台風など突風の心配がないときには、軒先だけ土留めに芝を置いて、中ほどは、畑のように、直接好きな種を撒いてしまっても良いです。
F プラニング
建物をどう配置するかで、草屋根の見え方、使われ方は大きく変わってきます。
① |
草屋根の向き、配置 斜線制限などの制約をクリアしながら、道からどのように見せるのか、屋根に座ったお気にどこを眺めたいか、どこから登るかなどによって草屋根の方向を決めます。 一般的に、南面の屋根は、夏場乾燥しやすく、北面の方が水やりは楽です。 |
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② |
中からの視線・外からの視線 家の中からも草屋根が見えると楽しい。 中庭形式だと、リビングから、向かいの草屋根が良く見えて、お互いに声もかけやすいです。2階の窓を開けると「草原」というのも気持ち良いです。 「コナンの家」は中庭型で、南側の住宅からの視線を草が防いでいます。 |
③ |
屋根への動線 屋根へ出るルートは、ルーフバルコニーや庭からハシゴで屋根に上るケースと、天窓から直接屋根に上るケースの2通りがあります。リビングルームから屋根が近いと登りやすい。天窓から直接屋根に上ってしまうのも楽しい。ルーフバルコニーが必要ないので、ローコストにもなります。 |
④ |
緑をつなげる せっかくの緑の屋根なので、地面の緑とつながればもっと楽しいと思います。「草屋根のまつばさん」では、わずかな地面にムベを植え、竣工後2年で、屋根の緑とつながり、この緑のカーテンは、2階の浴室窓の目隠しにもなっています。 |
⑤ |
安全のこと 屋根からの落下防止に十分留意する必要があります。特に、小さな子供がいるときは、梯子の段板を抜いたり、ハシゴに鍵をかけた柵をとりつけたりして、勝手に登れないよう対策をとります。 |
育成と管理
メンテナンスは、水まきと、施肥。何を植えるかで、メンテナンスは違います。
芝だけにしたい時には、まめな雑草引きが必要です。野原にするときには、嫌いな草だけを抜く程度。
野菜などを育てて、シソやニラ、ミニトマト、さつま芋など収穫を楽しむ屋根もあります。
季節ごとに花も楽しめます。ユリ、コスモス、シャスターデージーなどの宿根草は、こぼれ種で、勝手に毎年咲きます。
散水は手まきが好ましいですが、夏場、旅行などで留守をするときのために、タイマーをつけて、自動灌水します。しかし、自動灌水は、どうしても水の出方にむらがあるので、注意が必要です。